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世界中のクリエイターを支える開発スタジオKeywords Studios、その驚異の開発力の秘訣をキーパーソンに聞く
by
古屋陽一
編集部
by
竹内白州
ライター
2018.11.09 18:00
世界20ヵ国で50以上のスタジオを展開するKeywords Studios。ディレクター(アジア)兼 日本代表 クリストファー・M・ケネディ氏に同社の成り立ちや今後の戦略を聞いた。
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いま注目を集める、世界最大規模のゲーム開発支援スタジオに迫る
 世界20ヵ国で50以上のスタジオを展開するKeywords Studiosは、世界最大規模のゲーム開発の支援を業務とするスタジオだ。その事業はアートアセット制作、音声収録、エンジニアリング、翻訳、言語デバッグ、機能デバッグ、カスタマーサポートなど、多岐にわたる。さらに、ほぼすべてのプラットフォームをサポートしていることも、ゲームメーカーにとっては心強い点だろう。
 Keywords Studiosは、2009年に東京オフィスを設立し、日本市場においても存在感を見せている。ここでは、ディレクター(アジア)兼 日本代表 クリストファー・M・ケネディ氏にKeywords Studiosの成り立ちや戦略、今後の展開などについて聞いた。
クリストファー・M・ケネディ氏
Keywords Studios
ディレクター(アジア)兼 日本代表
(文中はケネディ)
この規模で、ゲームだけに特化した企業であるのは誇り
――まずは、Keywords Studios(以下、キーワーズ)の創業から現在に至るまでの流れを簡単にお教えください。
ケネディキーワーズは1998年にアイルランドのダブリンで創業しています。創業したのはイタリア人の夫婦なのですが、もともと奥さんのほうが、イタリア語の翻訳者として、とある企業に勤めていたんですね。そこから独立して、当初は個人で翻訳の仕事を請け負うつもりだったそうですが、ご主人さんから会社を興そうと提案されて、キーワーズが生まれました。スタートこそ二人でスタートしましたが、徐々に規模が大きくなっていって、2008 年くらいには50人くらいの規模になっていました。
――イタリア人の夫婦がダブリンで起業というのもおもしろいですね。創業した当時はゲーム業界に特化した 会社ではなかったのですか?
ケネディはい。2005年までは幅広くいろいろなジャンルの翻訳事業を行っていたのですが、それ以降はそれ以外の分野を全部やめて、ゲームにフォーカスすることになりました。その後、翻訳だけではなくて言語関連のデバッグや音声収録にも取り組み始めました。この先ゲーム業界のニーズが多様化して、扱う領域がより複雑化するだろうということで、専門性を高めなければならないと判断したためです。
――2009年には東京にオフィスを構えたのですね?
ケネディはい。ダブリンだけでなく海外にもスタジオを作りたいということで、アジアが候補に挙がりました。そのころは、「これからはヨーロッパだけではなくて、アジア言語にも力を入れたい」と考えていたんですね。そこで、日本、シンガポール、韓国を検討していたのですが、最終的に日本に最初の海外拠点を作ることになりました。日本はゲーム大国ですし、当時キーワーズがヨーロッパでお付き合いしていたお客様の相性などを鑑みて、大きなビジネスのチャンスがあると判断したんです。
――ケネディさんは設立当初からいらっしゃるのですか?
ケネディそうです。日本法人をいちから立ち上げています。本社ダブリンから数人サポートで来てもらっていましたが、基本的にスタッフは日本で採用して、お客様との関係も日本でいちから構築させていただきました。日本法人は今年で9年目になりますが、規模もかなり大きくなってきています。スタッフ数は250人ぐらいで、サービスラインが日本だけで5つあります。日本のオフィスでは、翻訳、言語デバッグ、音声収録、そしてカスタマーサポートが中心なのですが、いずれは、エンジニアリングやゲームタイトル丸ごとの制作を日本でも事業化することを目標にしています。
――いま、会社の規模はどれくらいに?
ケネディ全世界で約5000人を超える 従業員規模になっています。近年は、各国の実力派スタジオの友好的な買収にも積極的に取り組んでおりまして、この5年間で新たに34のスタジオが傘下に入りました。この規模で、かつゲームだけに注力している会社はほかにないと思いますので、これは誇りです。
Keywords Studiosのオフィスは国際色豊か。
ゲームに対する情熱や知識がクリエイティブな仕事に結びつく
――改めてとなりますが、キーワーズの現在のおおまかな業務内容を教えてください。
ケネディ先ほど少しお話した通り、もともとのルーツは翻訳業でしたが、いまでは翻訳だけの会社ではなく、翻訳だけで見ると全体の売上の2割くらいになっています。それ以外に、エンジニアリングやデバッグ、ほかには音声収録やカスタマーサポートなど多岐にわたるサービスをグローバルに展開しています。 ――受託開発を行うだけの会社というわけでもないわけですよね。
ケネディ受託開発もしていますが、それだけではないです。企画の段階からプリプロダクション、ポストプロダクションまですべて取り組んでいて、パブリッシングはお客様にお任せするというスタンスです。 ゲームに関わる業務は、ほぼすべて手掛けています。
――ホームページには“テクニカル・サービス・プロバイダー”という記載がありましたが。
ケネディかっこいいでしょう(笑)。それぞれのサービスのスタッフには専門性が備わっています。たとえば、翻訳者だからといって翻訳だけをこなせばいいのではなくて、ゲームに関する知識や経験があってこそ初めてクリエイティブな仕事ができるという考えかたです。一方で、いままではゲーム一筋で展開してきましたが、これからはコンテンツに注目していきたいという考えの表れ でもあります。そのうえで、大切にしているのは情熱。
――情熱ですか?
ケネディそうです。情熱です。キーワーズの社員は全員がゲームに対してすごい情熱を持って仕事をしています。私もそうですが、ゲームをたくさんプレイして育ってきていて、ゲームに対する強い思いを持っている人が多いんです。みんな、大好きなゲーム業界に貢献したい、ゲームの開発に携わりたいと思ってキーワーズに入ってきています。お客様は自分たちが好きなゲームを作っているという、いわば憧れの存在でもあります。そういったお客様に対して、自分が育てられたゲームに対する感謝に近いですが、よりよいサービスを提供したいという情熱を、私に限らずスタッフ全員が共通して持っています。
――溢れるゲームに対する思いが情熱につながっているのですね。
ケネディちなみに、情熱とは言ってもゲームに対する思いは人それぞれに違うでしょうから、「本当はグラフィックをやりたいけど、そこまでのスキルがない」というスタッフも、当社はいろいろなサービスを手掛けていますので、違う部門に入社後、ゆくゆくは希望の職種を目指すということも可能なので、自分なりの情熱を具現化しやすい環境であると思っています。
――たとえば、仕事が来た場合に、そのゲームが好きな人が率先して立候補できたりするのですか?
ケネディできる限りそうしています。そもそもスタッフの得意分野は把握しているので、「このジャンルの依頼が来たらこの人にお願いしよう」という基準はあります。そのほうが、仕事もうまくいきやすいですからね。 それが、もともと大ファンであるゲームならば勉強量も少なくなるでしょうし、効率的です。人気のゲームは取り合いになることもあります(笑)。もちろん、すべてが希望通りになるわけではないのですが、現場の人間はなるべく好きなジャンルを担当してもらうようにしています。
立ち位置を明確にすることが大事
――幅広い業務を手掛けていますが、ライバルに負けないために心掛けていることはなんですか?
ケネディ規模が大きくなってきましたので、いままで通りにお客様に満足していただけるクオリティでサービスを提供し続けることがいちばんです。これまでに築き上げた信頼を失わないようにすることが、これからの成長にもつながると思っています。先ほどお話ししたとおり、この5年間で34のスタジオに傘下に入ってもらいましたが、それと同時に既存の事業も成長させていくというふたつの柱で、成長戦略を取っています。拡大と成長、どちらに偏ることもなく両方を大きくしていきたいです。
――各スタジオで統一した方針のようなものはあるのですか?
ケネディ基本は好きに任せています。各スタジオが持つそれぞれの個性を、あえて崩したりはしません。そもそも業界内である程度評判のいい会社を仲間にしているので、もともと固定のお客様がついています。そこで、やりかたをガラリと変えてしまうと、お客様が離れてしまうおそれがある。ですので、ありのままのやりかたを活かしてもらって、その社風を好んでいただけるお客様をそのまま大切にしています。そのうえで、「前の会社だとこういうことはできなかったけど、キーワーズになったらこういうことができるようになった」というところをお見せすることができれば最高です。それまで競合だった場合は、たとえ強みを知っていてもお客様に紹介できませんが、仲間になることによって、躊躇することなく推薦できるようになるのはうれしいことですし、お客様にとっても有益ではないかと考えています。
――選択肢が増えるのは強みかもしれませんね。
ケネディそして、そのうえで業界内でのキーワーズの立ち位置を明確にしていくことが重要だと思っています。キーワーズには、さまざまな系列の業務を行うスタジオが存在していて、料金が安いとか品質が高いとか、それぞれのスタジオで強みがあります。“料金が安い”や“品質が高い”とアピールしたとして、実際のところどれくらい安いのか、この部分の品質はいいけど、この部分はよくないという具体的なデータが、いろいろな会社が入ってきたことで明確になってきています。これは大きな強みですね。
――だいたいの相場が分かるようになったということでしょうか?
ケネディそれもありますし、お客様の予算に合わせた判断がすぐにできるようになりました。多くの会社を傘下に入れたことによって、一部のお客様からは「キーワーズしか選択肢がなくなってしまう」というお声もたまにいただくのですが、私たちはむしろ選択肢を減らすのではなくて、もっと広げる存在であるとアピールしたいです。たとえば、とても高品質なものを作ってくれるけれど、経理が不安定な中小企業があるとします。そこの製品はほしいけれど、会社が傾いて納品されないかもしれないリスクを考えると選択肢に残らないですよね。そういう優秀な会社をひとつの大きな経営基盤の上に乗せることで、結果的にお客様にとっての選択肢が増えるんです。最終的にどこを選ぶかはいままで通りお客様に決めてもらっています。
――入り口はひとつでも、中にはたくさんの選択肢が用意されていて自由に選べるということですね。キーワーズというプラットフォームの中にはたくさんのコンテンツがあるという。
ケネディまさにその通りです。このシステムがいかに使いやすいかというのは、ゲーム好きの皆さんなら、なんとなくおわかりいただけるのではないかと(笑)。
――ちなみに、日本で気になる企業はありますか?
ケネディ日本を含む全世界で、もちろんあります 。ちなみに国内の実績については、買収ではないですが、最近シリコンスタジオさんから、ビッグデータの分析をしてユーザーの行動予測ができる機械学習エンジン『YOKOZUNA data』に関する資産の譲渡とそれを開発したチームを東京オフィスの仲間に入れさせていただきました。
1本のソフトで65ヵ国語に対応したことも
――ちなみに、これまで手掛けたタイトルは何本くらいになりますか?
ケネディタイトル数という単位で表現するのは、いまのキーワーズでは難しいです。というのも、モバイルだと同じタイトルが5年くらいずっと続いていたりするのですが、これが果たして1タイトルなのか。もしくは対応言語の数だけ1タイトルとカウントしていいのかとか(笑)。コンソールゲームでも、ダウンロードコンテンツをどうカウントすればいいのかとか……。大型タイトルの一部にだけ関わっていることもあります。100文字だけの翻訳とかもありまして、それも1本なのかどうか。
――本数というのは、現状のビジネスモデルにそぐわないということですかねえ。
ケネディあえて分かりやすい数字を挙げるとすると、年間10万のアートを制作していて、2億5000万ワードの翻訳をしています。
――ちなみに、翻訳は何ヵ国語くらいに対応しているのですか?
ケネディ平均的にはコンソールが8??12 くらい、モバイルだと15??20 になることが多いです。いままでいちばん多かったのは1タイトルで65言語に対応しました。
――65言語! ギネスブックに載りそうな数字ですね。想像もつかないけど、どんな言語が入るのですか?
ケネディヨーロッパ、アジア、中南米、中東の言語などです。スペイン語などは使う国によって異なりますから、その分多くなりますね。スペインのスペイン語、メキシコのスペイン語、ペルーのスペイン語……といった感じです。
――世界中で40以上 ものオフィスを展開されているとのことですが、国(地域)によって、特徴などはありますか? 日本だからこそ強みを活かせる領域などあったりしますか?
ケネディ中国やインドでアート制作の事業がすごく大きくなってきています。ヨーロッパは言語が多いぶん、ローカライズの理解者が多いです。日本は、アジアと世界をつなげるブリッジのような役割を担っていて、それはおそらく日本にしかできないことだと思います。当然のことですが、日本の強みは日本のお客様からの信頼があるということです。これがとても大きくて、日本の商習慣を理解できていない外資系の企業が、日本に進出してきて一年くらいで撤退するというのはよくあることです。そうした企業とキーワーズの違いは、窓口を置くだけでなくて、日本に本格的に入り込んで、スタッフも現地採用し、日本国内でサービスを提供することを重視したスタンスだということだと思います。日本企業と同等だと認めていただくには、日本にどのようになじんでいくのかが大切です。これはすべての企業ができるわけではないので、キーワーズの大きな強みになっています。
――東京スタジオでの、日本のお客さんの割合はどれくらいなのですか?
ケネディいまは日本のお客様のほうが多いです。海外スタジオのアジア言語をサポートする場合 もありますが、ほとんどが日本のお客様からいただいているお仕事です。キーワーズの場合はもともと海外から仕事が入ってきているので、それを回しながら日本のお客様を増やしていけたのが大きかったです。
――現在スタッフの方はどこの国の方が多いのですか?
ケネディいまは全体の3??4割が日本国籍ですが、ぜんぶで25国籍くらいです。日本のゲームが好きで日本にやってきたという人が集まっています。日本人以上に日本のゲームやアニメに詳しいスタッフもいますよ(笑)。
――社員どうしの交流などは行われているのですか?
ケネディ年に4回か5回ぐらいは全員で何らかのイベントを行っています。日本の企業らしく忘年会や花見もやりますし、欧米らしくハロウィンのイベントもやります。オフィスにかぼちゃや黒猫、魔女なんかのデコレーションをして、当日は仕事が終わってからパーティーを開く予定です。希望者向けには仮装コンテストも開きます。ほかには、もちろん全員ゲーム好きなので、格闘ゲームやスポーツゲーム、カードゲームなどの大会もよくやっています。入賞者にはトロフィーや粗品を渡したり、あと名誉がもらえたり(笑)。大会とは関係なく、休憩中はよくみんなでゲームをやっていますよ。
休み時間は格闘ゲームなどで遊んでスタッフどうしで交流。
こちらは2017年のハロウィンパーティーの模様。
日本のスタジオはチャレンジ精神溢れるタイトルに挑戦している
――日本のゲーム業界の開発力をどのように捉えていますか?
ケネディ個人的には欧米のゲームよりも日本のゲームが大好きで、これまでもJRPGなどを遊んだ本数のほうが多いです。ですので、日本のゲーム業界にはとても期待しています。一時期はすこし落ち込んでいましたが、最近はすごくよくなってきていると感じます。コンソールとモバイルの両方を強みにしていますし、ゲームもたくさん出ていますし。
――たくさんの国の方とお付き合いのあるキーワーズさんから見て、日本のゲームは海外から注目されてきていると思いますか?
ケネディすごく注目されていると思います。日本開発で開発された 難易度の高いゲームや独特なビジュアルのゲームがとくに人気を集めていると思っています。最近は、イギリスやアメリカのRPGランキングを見るとTOP10に日本のRPGがよく入っています。実際のところ、2010年ごろの仕事としては、カジュアル系のゲームの翻訳が多かったのですが、最近はコンソールのゲームも増えてきているという印象があります。2005年くらいに海外メーカーの開発力が上がってきていたころ、日本はモバイルゲームの流行でみんなそちらにシフトしてしまったこともあり、技術的には海外と差がついてしまいましたが、最近は盛り返してきているように感じます。予算規模はやはり海外のほうが大きいです。ただ、最近は海外でも以前の日本にあったような、ナンバリングタイトルが多くなってチャレンジが少なくなってきている傾向が出てきています。チャレンジ精神溢れるタイトルは、むしろ日本のほうが多いかもしれません。
――日本のゲームが世界から注目されると、ますますキーワーズの力が必要になってきますね。
ケネディ以前は海外のゲームは日本ではそんなに売れなかったのですが、いまはかなり売れるようになりました。キーワーズはその流れとともに大きくなってきた面もあるので、これからも日本と海外がお互いにお互いのゲームに注目する状況が続くといいですね。
――ゲーム業界の現状を鑑みつつ、今後注力していきたい領域、チャレンジしてみたい領域などありましたらお教えください。
ケネディAR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった新技術も出てきていますし、技術的な方面にはより力を入れていきたいです。技術に注力することで、これまでよりもさらに高度なサービスが提供できるような体制が整えられるのではないかと考えています。
――ちなみに、これまでゲームのパブリッシングをされていないのは何か理由はあるのですか?
ケネディパブリッシングはやりません(笑)。お客様と競合関係になりたくないからです。我々は独立したプラットフォームとして、すべてのゲーム会社さんとお付き合いができる体制でいなければいけません。自社でゲームをリリースするようになってしまうと、他社さんからの依頼を受けづらくなります。 ですので、今後もパブリッシングを行うつもりはありません。私が最近よく口にしているフレーズは、「キーワーズはゲーム市場のインデックスファンド(※)である」というものです。たとえば、どこかの地域が落ち込んでも、勢いのあるほかの地域で補えるし、ひとつのプラットフォームの市場が不調になっても、別のプラットフォーム向けに開発すればいい。いろいろな事業をグローバルに展開しているからこそ、長期的に安定した価値を提供し続けることができるのです。
※インデックスファンド…… 市場平均と同じ値動きを目指す運用をする投資信託。
社内には堀こたつの打ち合わせスペースもあり、スタッフからは大いに人気を集めているそうだ。
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